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 去勢手術をしていない雄犬では、中高齢(6〜8才)以降にいくつかの特有の病気がみられます。今回はこれらの病気のうち、男性ホルモンの刺激が原因となって起こる前立腺肥大と会陰ヘルニアをとりあげます。

<前立腺肥大>
 前立腺肥大は、中高齢の雄犬の前立腺がホルモンの影響を受けて腫れてくる良性疾患です。

前立腺は膀胱の後方に、尿道を取り巻くようにして位置しています。前立腺が腫れると尿道や骨盤腔内の直腸を圧迫し、排尿・排便障害(尿が出ない・出にくい、糞便が細い)や、血尿、しぶり、腹部痛がみられます。悪化すると腸閉塞に似た状態となり、腸にガスがたまって食欲不振や吐き気が引き起こされます。また前立腺の細菌感染を起こしていると発熱もみられます。

 前立腺肥大があっても排泄に異常がなく、レントゲン検査などで偶然発見される犬もいます。
治療は外科療法と内科療法があります。
 全身麻酔に対して問題のない年齢や健康状態の犬であれば、半永久的な治療である去勢手術をお勧めします。去勢手術により男性ホルモンの影響がなくなると、術後数週間で前立腺の腫れはおさまります。

 内科療法では前立腺の腫れを引き起こすホルモンを抑える薬を使います。全身麻酔をかけられない場合や、交配の予定のある犬には症状に応じて内服薬を処方しています。ただし、薬をやめると再発することがあります。


 

<会陰ヘルニア
 会陰とは、しっぽの根元と肛門まわりのことをいいます。会陰部の筋肉は骨盤内の直腸や膀胱、前立腺などを支えています。この筋肉が弱くなり、腸などの一部臓器がおしりまわりの皮膚の下に脱出する状態を会陰ヘルニアといいます。会陰ヘルニアは男性ホルモンによる筋肉の脆弱化や、いきみやすくなる内臓疾患(膀胱炎、前立腺疾患、下痢、便秘など)が原因と考えられており、去勢していない中高齢以上の雄犬によくみられます。雌犬は骨盤まわりの筋肉が雄犬より強く、会陰ヘルニアが生じることはまれです。

 症状は便秘といきみが特徴的です。脱出する臓器の多くは直腸で、このため糞塊の移動がさまたげられて便秘が慢性化します。少量の軟便や水様便がみられることもあります。触診すると肛門の脇が大きく膨らんでいます。

脱出する臓器には他に膀胱や前立腺、尿道といった泌尿器系の器官があり、これらが関係すると尿道の閉塞から尿毒症を起こすおそれがあります。

 毎日の排泄に伴う不快感は動物のQOL(生活の質)の低下を招きます。例えば、食欲がなくなる、散歩に行きたがらない、怒りっぽくなるなどです。またヘルニアを起こした臓器は常に傷つく危険性があります。

 会陰ヘルニアには整復手術をお薦めします。脱出した臓器を腹腔内に戻して裂けてしまった筋肉を修復します。同時に再発予防のための去勢手術も行います。

 年齢や体調により全身麻酔による手術を受けられない場合は、排泄時に飼い主さんの介助が必要になります。ヘルニアの腫れた部分に手を添え、出来るだけ腫れを押し戻すようにすると排便しやすくなり、排泄に伴う痛みも緩和してあげることができます。また便秘症になりやすいので、便通を良くする薬やサプリメント、便軟化剤などを併用すると良いでしょう。
 写真は会陰ヘルニアを起こした犬の尾っぽまわりを上から撮ったものです。尾の左側の矢印で示した部分がヘルニアを起こしたところです。右側に比べて腫れているのがわかるでしょうか。

 

 雄の生殖器官である精巣が、生後(生後1〜2ヶ月以内)に正常な位置に降りず、体内やソ径部(内股)の皮下にとどまっている状態を停留精巣といいます。両方とも降りていない場合と、片方だけの場合とがあります。


 停留精巣の発生率は1〜2%といわれています。若いうちは無症状ですが、正常な位置にない精巣は体温の影響で生殖能力を欠きます。片方の精巣が陰嚢内に降りていれば生殖能力はありますが、遺伝病であるため交配には適しません。

 停留精巣の犬では中高齢以上で精巣腫瘍の発生率が高くなります。

 精巣にとって体温(犬猫では38度台)は高温です※。この高温の環境により精巣の細胞が障害を受け、腫瘍細胞へ変化しやすくなるのです。一説には犬の停留精巣の腫瘍発生率は正常な精巣の13倍といわれています。体内で腫瘍化しても目に触れないため、気づきにくいことがあります。

 猫では停留精巣の腫瘍化はまれです。
 
※睾丸が体外にあるのは、体温よりも低い外気温の方が精巣(と精子)にとって都合が良いからです。ですから、♪たんたんたぬきの〜 は意味あることなわけです。ぶらぶらしてないと子孫を残せないのですから。

 精巣腫瘍は停留精巣だけでなく、正常な位置にある精巣でもみられます。10歳以上の犬で発症しほとんどが良性腫瘍ですが、一部は悪性でリンパ節や全身に転移することがあります。

 精巣腫瘍は腫瘍化した片方の睾丸が大きくなって発見されます。停留精巣ではソ径部や腹腔内の精巣が大きくなると正常な位置にある(外にある)睾丸が小さくなります。腫瘍がある程度大きくならないと全身的な症状は目立ちません。腫瘍の種類によっては、進行すると食欲元気がなくなり、脱毛や皮膚炎、貧血を起こすことがあります。 停留精巣や精巣腫瘍治療の第一選択は去勢手術です。ほとんどの精巣腫瘍では手術以外の治療を必要としません。

 精巣腫瘍で怖いのは腫瘍化した精巣から過剰に放出されるホルモンの影響です。このホルモンはエストロジェンといい、オスでは通常放出されることの無い女性ホルモンの一種です。オスの女性化(乳腺が腫れる)を引き起こしたり、骨髄の働きを抑制したりします。

 骨髄の働きが抑制されると貧血や血小板減少症による合併症がみられることがあります。この場合去勢手術後の回復が非常に悪くなります。例えば手術で切開したところからの出血が止まらない、手術をしても骨髄の働きが数ヶ月回復しないため貧血が改善しないなどです。獣医師が停留精巣の患者さんに対して病気の予防としての去勢手術を強く勧めるのは、目に触れにくい精巣が腫瘍化して体調の不調に気付いたときにはこうした合併症がすでに始まっており、つらく悲しい経過をたどることが多いからです。
 

 写真は犬の停留精巣を手術したときのものです。この子は睾丸内に精巣が一つしかなく、もう一つは腹腔内にありました。精巣腫瘍になる前に手術することが出来たので、貧血等の異常が無く術後の経過は順調でした。