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 恩師が、元旦早々電話してきた。
「ネコイヌもいいけれどねえ、君、そんなことより、早くヒトのオスを飼いなさい、ヒトのオスを!!」

 第一章の冒頭にあるこの言葉がイタイ。
 自分が言われているように思えたら、あなたは私のお仲間。

 さて。

 ロシア語通訳であり文筆家であった米原氏の、犬猫にまつわるエッセイ集である。国内外の仕事先で出会って家族になった動物達との騒動が、楽しくユーモアにあふれ、軽快に時に辛らつに語られていて、犬や猫を飼っているもしくは飼っていた人なら思わず我が意を得たり、と膝を打つことうけあいである。そして動物を特に好きでなくても、著者を取り巻く人々との交歓が通り一遍ではないので、ヒト騒動記として楽しめるはず。

 通訳で出かけた国際会議の会場の外に、子猫が二匹捨てられていた。会議の出席者たちの人気者になるも、仕事で来日した彼らが引き取れるはずがない。外は雨。会場スタッフが気を利かせて、一時的に中に入れるも、雨がやめば外に出されてしまうのは目に見えている。米原氏、もう我慢が出来ない。

「私が引き取りましょう」

 この言葉の後に起こった出席者、スタッフの“ちょっと常軌を逸した”行動は、常軌を逸していても心温まり(猫を飼う私はここでもう涙があふれ)、まったく世の中捨てたものじゃないよね、と思わせる。そして、会議から帰る際に乗ったタクシー運転手の鬼嫁の話に、世の中ってとにもかくにも動物が嫌いという人がいて時々つらいな、と思う。動物好きを天国に持ち上げては地獄に突き落とすような、エピソード満載なのである。

 楽しいだけのエッセイではないが、爆笑する場面のほうが多いし、著者の犬猫と家族、友人に向けるまなざしの優しさに親しみがわき、心癒されるのではないだろうか。

 お薦めしつつも、獣医師として笑うに笑えない場面が二つある。

獣医師シンポジウムの話。著者の知人で非常に優秀な英語同時通訳者がいた。明快、簡にして要を得た歯切れのよい通訳をする人なのだが、シンポジウムの後、日本人獣医師に通訳が悪いと怒鳴りつけられる。なにが悪かったのか、と知人がこのセンセイにお伺いをたてると、
「エサだよ、エサ。エサなんて言い方はねえ、今じゃ古い人間しか使っとらんのだ」
「まあ、それは存じ上げませんでした。(略)どんな訳語を当てたらよろしいんでしょうか」
「フードと言い給え、フードと」

 こんなセンセイはちょっと嫌。

 もう一つ。著者が瀕死の子猫を動物病院に連れて行くと、
「今晩が山場。明日まで生きながらえたら、何とかなるでしょう」
と言われる。この猫は助かったのだが、この後ほかの動物の治療でも、同じようなセリフを何度も獣医師から聞かされる。そうして思うのである。

“きっと獣医の教科書かマニュアルに書いてあるに違いない。治療が失敗した場合の保険にもなるし、生きながらえた場合はその獣医への信頼感が増すはずだから、考えれば考えるほど、これは名文句だ” と。これには返す言葉がない。

 著者、米原万里氏は今年(06年)5月病気のため逝去。享年56歳。

 幼いころ冷戦下の東欧で過ごし、後にロシア語通訳となった体験から語られるエッセイなどで数々の賞を受賞している。ノンフィクション『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』は、冷戦が著者の友人達に落とした影の深さを描いて読み手を凍らせる。逆に、エッセイ『ロシアは今日も荒れ模様』『ガセネッタ&シモネッタ』などはからりとしたユーモアと下ネタで腹がよじれるほど笑える。惜しい人を亡くしたと思う。

『ヒトのオスは飼わないの?』
上/講談社、下/文春文庫

 


 大統領の一夜の替え玉として呼ばれたデーヴは、脳卒中を起こした本物の代わりにそのまま大統領を演じ続けることになってしまう。はじめは操り人形のようだった彼が、やがてその明るさ優しさで周囲の人々の心をつかんでいく……。

 ニセモノの大統領が見せるパフォーマンスの数々にニコニコうきうきすること間違いなし(施設の男の子相手にマジックを披露するシーンは何度見ても素敵。上手いよケヴィン・クライン)。そして本物とは疎遠になってしまったファーストレディが心を開いていく様がとても自然で、観客は彼女を通してデーヴに魅了されていく。だからこそ、ニセモノがそのまま仕事を続けられるはずがなくそこはどうなるのかと、はらはらしてしまう。そして最後の最後ににやりとさせられる。

素晴らしい脚本、確かな演技陣、観客を楽しませようとする演出。ハートフルコメディの傑作……なのですが、あんまり有名ではないようで。各界の著名人(本物の議員、TVキャスター、コメンテーター)が出ているし、豪華なキャストばかりだけれど、日本ではシガニー・ウィーバー以外あまり名前が知られていないからかもしれない。でも、キャストを知らなくても関係なし。見終わって「良い映画だったね」とすっきりすること受けあい。

“I would've taken a bullet for you.”
「あんたのためなら盾になれるよ」

動物はコーギーが登場。少しだけ。

 大統領夫人をファーストレディと呼ぶように、大統領の犬はファーストドッグと呼ばれる。このファーストドッグが映画では2頭登場する。彼らを記者向けのアピールアイテムとしか扱わない本物の大統領の冷たさと、芝生の上で一緒になって転げ回るニセモノの温かさの対照性が鮮やか。でも出番はそれだけ。

この映画に登場するのはウェルシュ・コーギー・カーディガン。体高25〜35cm、体重12kg前後の牧畜犬。Curは“見張る”、giは“犬”という意味。JKC登録犬数は230頭、全登録犬種中59位(2005年現在。ペンブロークは7位、18426頭)。家畜の蹴りを避けられるように、地面に着くくらい体高が低い。非常に活発で体力に優れている。人気のあるペンブロークより、体長が長く耳の先端が丸みを帯びている。尻尾あり(ペンブロークも尾を持って生まれることがあるが、断尾する)。現在両犬種の姿にあまり違いはない。

<どうでもいい話>
本物の大統領はホテルで“不適切な関係”の真っ最中に脳卒中。いえ、この映画、ハートウォーミングですよ、ほんと。R指定じゃございません。
米大統領ブッシュ氏のファーストドッグはスコティッシュテリアのミス・ビーズリー。仏大統領シラク氏のファーストドッグの名前はSUMO(スュモと発音)。シラク氏は親日家で大相撲好きだからとのこと。
ハリウッド映画では米大統領が主役脇役で結構登場する。「JFK」「ニクソン」「エアフォースワン」「インディペンデンスデイ」「マーズアタック」「アメリカンプレジデント」「パーフェクトカップル」などなど。フィクション、ノンフィクション、政治が舞台のものからアクション、恋愛物までいろいろ。
ドラマで米大統領といえば「ホワイトハウス(原題The West Wing)」!! ものすごく好きなドラマ。シリアスあり、笑いあり、泣きあり。こんなに毎回脚本が練られているドラマって日本にあるだろうか、と思う。今回取り上げた映画のことよりも犬のことよりも、この場でこのドラマのことを言いたかっただけなのかもしれない(いえ、映画は本気でお薦め)。大統領ネタ大好き。どこかでもう少し取り上げたい。動物病院には関係ないけれど。

 

 

 犬は絶滅寸前で本物は動物園にいるか非常に高価になり、代わりに模造犬(レプリカ)が売られている時代。高校生の裕樹の家にはレプリカのメアリがいる。でも彼は同級生が本物の犬を飼っているので羨ましく、比べてレプリカである上にタイプの古いメアリが疎ましい。そして本物の犬を亡くした友人の落胆ぶりが理解できず、その腹立たしさからついにはメアリを海岸に捨ててしまおうとするが……。

 胸からモーター音が聞こえ、壊れたら修理ができるレプリカというとSFっぽいけれど、外観や表情・性質は本物の犬と寸分変わらないし(SOYのアレとは全く違う)、人間の生活風景もほとんど現代と変わらない。これはAI(人工知能)がうんぬんというのではなく、動物に魂や命があるというのはどういうことだろう、というお話。

生きモノを大切にする、さらにそこに命を感じたのであればモノは物でなく、魂を持った一つの個としてヒトの前に立っているのではないかなということ。そして、亡くなってしまった人や犬、猫、動物たちと喜怒哀楽を共に過ごした日々を思う、その行為は彼らが生きていたことの証になるということ。

レプリカの姿を通して生命/魂について考えるのは逆説的(でもSFの常套手段)なのだけれど、このコミックスは何も難しいことをつらつら並べているわけではないので、すんなり読める。

「メアリは……君が海に落ちたから、海に入ったんじゃないの? 自己防衛の機能のことは 僕はよく知らないけど、だって、“犬”ってそんなもんなんじゃないのか?」

けして宗教的な話でも、説教でもないですヨ。

絵柄はシンプル。

この本は短編集になっていて、「ずっと〜」に関連したシリーズに「RALPH」「SPOON」という話が収められている。前者は亡くなった本物の犬の話。

どうでもいい話

_ 薦めておいてなんですが、このコミックスは現在絶版。でも時々ブッオフで見かける。アマンにはユーズドで出品されている。いい本なのになあ、古いからかなあ、もったいない。

_ 自己申告。副院長岸は結構オタ入ってる。本を紹介とか言ってこれからも時々コミックスを紹介する、はず。

 

"You make me wanna be a better man."
「君に会って僕はいい人間になりたくなったんだ」
改まってこんなせりふを言われたら、女性ならぐらりときませんか。

素敵な、大人向けの恋愛映画。

恋愛小説家のメルヴィンはものすごい潔癖症(ばい菌恐怖症)。動物なんてもってのほか。隣のアパートメントの画家が飼っている犬がエレベーターホールで粗相をしたのが許せず、ダストシュートに放り込むぐらい。そんな男がひょんなことからその犬を預かることに。一緒にすごすうちに通じ合い、それとともに彼の人を寄せ付けない性格にも変化が訪れ・・・。この犬が主人公と周囲の人々との橋渡しになっていく、そのエピソードが非常にほほえましい。

と、書くと犬の映画のようだが、違う。

舞台はNY。女心を魅了する小説を書くが毒舌偏屈で自分の恋愛や友情とは無縁の主人公が、犬を預からねばならなくなったり、バツイチ子持ちのお人よしウェイトレスを意識するようになったり、無一文になった画家を引き取ったり。おろおろといらいらと状況に流される主人公は、しかしやがて少しずつ他人を思いやる優しさに目覚め始めて・・・。そのさまが、丁寧で暖かな、独特のリズムでつづられていく上質なお話。大人向け、というのはカップリングが初老の独身男性とシングルマザーという点なのだけれど、どんな世代も気持ちよく見られる映画だと思う。

犬はちゃんと話に絡むけれど、一応脇役。脇役といっても、この犬が非常に表情豊かでウィットに富む、ように見える。出演者たちは口をそろえて「この子に場をさらわれてしまう」と言っているし、監督も「これはある犬の物語」と話していた。・・・やはり犬の映画なのかもしれない。

 この映画に出てくる犬、ブリュッセル・グリフォンは5kg前後の小型犬。日本では珍しく、JKC登録犬数は153頭、全登録犬種中67位(2005年現在。ちなみにダックスフンド14万頭)。シーズーやペキニーズのつぶれたお顔とヨークシャーテリアが混ざったような顔立ちをしている。毛質は粗剛毛(ワイヤーヘア)。毛色はレッドもしくはブラック。豊かなあごひげがポイント。性格は気立てが良く、楽しく、機敏。

どうでもいい話
@「タイタニック」がアカデミー作品賞監督賞などを受賞した年の映画。・・・もうそんなに経つのか。

A犬のバーデル役として出演したのは計6頭のブリュッセル・グリフォン。クローズアップ時に起用されたのはその中でも一番表情豊かなジル。

B映画の中で犬にベーコンを与えているシーンがある。塩分強すぎる。

C主人公役のジャック・ニコルソンはこの作品で二度目のアカデミー主演男優賞を受賞。ちなみに初めての受賞は「カッコーの巣の上で」(名作!)

D撮影時(1996)、NYの世界貿易センタービルは健在。背景にみられる。

E一言で言うと、だめんずの映画。だめんず好きのための映画。私向き。

 

 とにかくイラストが素晴らしい。そして添えられたコメントやエッセイが詩のようで、けれど思わずどきりとするような視点を持っている。写真もいいけれど、自分の飼っている動物の日常をこんな風に描けたら宝物になるだろうなあ、とうらやましくなる。犬を飼っていて、でもその愛しさと喜びを形にできないヒトの気持ちを代弁してくれる。そんな絵文集。というか絵+詩文集。

 グレイはシベリアンハスキーの男の子。絵描きと建築家と子供二人の一家にやってきて、家族をかき回し、笑い笑わされ、泣いて泣かされて、数年後に病魔に倒れて去っていった犬。グレイを描いた本はこの後に二冊、合計三冊あるけれど、この「まってるから」は元気なグレイの話。

 お散歩風景が何回も登場するが、読み返すたびに自分は飼っていた犬とどんな散歩をしただろうか、と思う。自称動物好きだがものぐさだったので、散歩を適当に切り上げることが多かった気がする。犬と歩いた道沿いにはどんな木や花があったろうか。散歩中に犬としっかりコミュニケーションが取れていただろうか。犬がこんなに喜んでくれていただろうか。いろいろ振り返ってみて・・・反省。でも本を閉じた後、あの子と一緒にすごせたことの幸せを思う。

 絵4割、文章6割という構成なので、ぱらぱらと絵をめぐるだけでも楽しめる。私は『のぞき』というイラストがとても好きだ。

「グレイはどこにでも首をつっこむし、あながあると鼻を入れてみないと気がすまない。おもしろそうだからいっしょにのぞいたら・・・」

何が見えたかは本を開いてみてのお楽しみ。
続編に「気分はおすわりの日」「グレイのしっぽ」がある。こちらは病気とグレイを描いていて、切ない。

シベリアンハスキーは体重16〜30kg前後のスピッツタイプの大型犬。日本では15〜10年前にブームになったが、現在その飼育数は減少し、JKC登録頭数は662頭で全登録犬種中40位(2005年)。